日々の仕事
アミノ酸セミナー
2025年7月10日、幕別町記念ホールにて開催されたセミナー「乳牛における革新的なメチオニン日本初上陸」に参加しました。本セミナーは、株式会社ワイピーテックとAdisseo社の共催、全国酪農業協同連合会の後援により開催されたもので、登壇されたのは、コーネル大学のマイク・ヴァンアンバーグ先生、AMTS社のトム・タルーキー先生、Adisseo社のブライアン・スローン先生の3名でした。いずれも非常に高名な講師であり、非常に充実した素晴らしい内容の講演でした。
講演の中心テーマは乳牛のアミノ酸要求量とアミノ酸バランスを考慮した飼料設計についてでした。飼料アミノ酸は、効率的に窒素を利用するという考え方に基づいて使用が検討されます。講義の中でも「生産窒素(productive nitrogen)尿中窒素比」という概念が紹介され、粗たんぱく質の過剰給与は乳蛋白質を増やす一方で、糞尿中の窒素排出を増やし、結果的に飼料コストや環境負荷の増大に繋がることが示されていました。乳量や乳成分を向上させるには、蛋白質の過剰給与では無く、アミノ酸バランスを考慮して窒素源を供給することが重要であるという考えが強調されていました。中でも、乳牛において要求量が多く、不足しやすいアミノ酸がメチオニンです。今回のセミナーでは、Adisseo社の新製品「メタスマート(MetaSmart)」が紹介され、従来のルーメンバイパスメチオニン製剤とは異なるアプローチが注目されました。本製品はルーメン内でメチオニン水酸体(HMTBa)に変換され、一部はルーメン内での微生物増殖を促進、残りはルーメン壁から吸収されてメチオニンとして乳成分の合成に寄与するという、二重の効果が期待されるとのことでした。従来の製剤では期待した成果が得られない場合もありますが、本製品のように従来通りのメチオニンの働きに加えてルーメン発酵の活性化という作用を併せ持つ特性は、高泌乳牛群における乳量・乳成分の向上を図る上で新たな選択肢になると感じました。
一方で、トム・タルーキー先生の講演では「粗飼料の重要性」が改めて強調されていました。ルーメン微生物は、アミノ酸供給源としても非常に重要であり、微生物蛋白質の産生を支えるためにも、粗飼料の質が最重要という点が非常に印象的でした。乾草と比べてサイレージは品質にばらつきがあることからアミノ酸の含有量にばらつきがあります。悪質なサイレージの生産や給与を抑えロスを減らすことはアミノ酸を供給する以前に重要なことだと再認識しました。
北海道ではこれから2番草やデントコーンの収穫が本格化します。良質な粗飼料を確保し、ルーメン発酵を安定させることで、アミノ酸給与量の最大化を図れることを期待します。今回のセミナーは、高泌乳牛の栄養設計を見直す上でも非常に示唆に富んだ内容でした。主催者を始め、セミナー関係者の方々に厚く感謝申し上げます。
大久保